年金数理 序章 出題分析と合格戦略
年金数理の本試験の形式・配点・出題の傾向と、学習の進め方です(無料公開)。
この章の節
この序章では、2006〜2025年度の過去問の全小問(19年度分、452件。2014年度は問題の原文を確認できないため除く)について、配点・論点の分類・難易度を記録したデータを集計し、どの分野にどれだけの点が配られているかを示します。そのうえで、180分の試験時間の中で70点を取るための解き方の方針をまとめます。集計の中心は、現在の出題形式に近い直近10年(2016〜2025年度、264件)です。
試験の形式
2026年度試験の形式は表序-1のとおりです。
表 序-1 2026年度「年金数理」の試験の形式
| 試験日時 | 2026年12月9日(水)10時00分開始。試験時間は180分 |
| 方式 | CBT(会場のパソコンで解答する方式)。残り時間の表示と簡易電卓がある |
| 出題形式 | すべて多肢選択式。数値は(A)〜(J)の10個の選択肢から「最も近いもの」を選ぶ形が中心で、式の選択や、記述の正誤の判定もある |
| 出題範囲 | 教科書『年金数理』(日本アクチュアリー会、平成27年3月改訂版)。細目は、年金数理の基本原理、計算基礎率、年金現価率、定常人口論(含む人口モデル)、財政方式、保険料と責任準備金、積立金と過去勤務債務、数理的損益分析 |
| 合格基準 | 満点の60%を基準として試験委員会が相当と認めた得点(合格基準点)以上で合格 |
| 電卓 | 四則演算・\(\sqrt{\phantom{x}}\) 演算・メモリー機能のみの電卓を持ち込める(定数計算機能は可)。関数電卓は使えない。計算問題は \(\sqrt{\phantom{x}}\) 演算機能のある電卓を使う前提で出題される |
| 計算用紙 | メモ用紙10枚(不足すれば申し出て追加。試験後に回収) |
| 付表 | なし。累乗・指数などの値は、問題文に「必要であれば次の数値を用いなさい」として与えられる |
出題形式の後半と付表の行は2022〜2025年度の過去問による。それ以外は日本アクチュアリー会「2026年度 資格試験要領」と同別紙「受験時の留意事項」「出題範囲」による。
合格基準点は「60%ちょうど」と決まっているわけではなく、年度ごとに試験委員会が決めます。本書が70点を目標にするのはこのためです。
近年の問題冊子の冒頭には、問題文の用語の約束が示されます。本書の例題と問題集も、とくに断らない限りこれに従います(第1章)。
「被保険者」は在職中の者、「年金受給権者」は年金受給中の者と受給待期中の者。
「加入年齢方式」は特定年齢方式。「責任準備金」は給付現価から標準保険料収入現価を控除した額、「未積立債務」は責任準備金から積立金を控除した額。
「Trowbridge モデルの年金制度」は、定年退職者のみに定年時から単位年金額の終身年金を年1回期初に支払い、保険料も年1回期初に払い込む制度。
分野別の配点シェア
図序-1は、直近10年の総配点1000点が本書のどの章に配られたかを、各小問の主な論点で分類して集計したものです。シェアの値は「毎年平均して何点出るか」と読めます。たとえば第6章「責任準備金と平準積立方式」の 14.2% は、毎年およそ14.2点分が加入年齢方式などの平準積立方式の問題だということです。
図 序-1 直近10年(2016〜2025年度)の章別の配点シェア。各小問を主な論点の1章に割り当てて集計
上位5章(第6・12・5・11・9章)だけで配点の 59.1% を占めます。とくに財政方式の中心である第5章と第6章の2章で、毎年およそ26.1点が出ます。第8〜12章の内容(特別保険料、給付設計、財政の検証、損益分析、制度変更)も、問題文の設定はすべて第5・6章の財政方式の上に立っています。一方、第13章「ファクラー・ティーレ」は直近10年では2021年度に大問として1回出ただけで、シェアは 1.6% です。
表序-2は、章ごとのシェアと出題された年数、重要度をまとめたものです。「主な論点」の列はその章の内容が小問の中心になった年数、「関連を含む」の列は、他の分野の小問の途中でその章の内容が使われた年も数えた年数です。各章の冒頭の「出題データ」の年数は「主な論点」の列の値です。第1・3章は単独のシェアこそ小さいものの、関連を含めるとほぼ毎年使われます。
表 序-2 本書の章と直近10年の出題データ
| 出題された年数(10年中) | |||||
| lr)4-5 章 | 内容 | シェア(%) | 主な論点 | 関連を含む | 重要度 |
時期による変化
表序-3は、2011年度以降を5年ずつに区切って、章別のシェアを比べたものです。章を「基礎(第1〜4章)」「財政方式(第5〜7章)」「財政運営と応用(第8〜13章)」の3分野にまとめると、財政方式の比率は約3割で安定している一方、基礎が減って応用が増えています。
表 序-3 時期別の章別配点シェア(%)。増減は2011〜15年度から2021〜25年度への変化
| 2011〜15 | 2016〜20 | 2021〜25 | 増減 | ||
|---|---|---|---|---|---|
2011〜15年度は2014年度を除く4年度分。2012・2013年度は大問のない20問×5点の形式で、2011年度以前は問題の原文の判読に不確かな部分がある。配点表に小問別の記載がない小問(全期間で42件、うち直近10年は3件)は、空欄の数などから按分した近似値で集計した。
目立つ変化は次の3つです。
制度変更・統合・分割が増えた:第12章は 6.5% → 11.4% → 14.4%。2025年度問3(1)の制度分割、2025年度問2(5)の制度統合のように、問題2・3の大問の題材として毎年出ます。
年金現価の単独の問題が減った:第3章は 12.8% → 5.6% → 4.2%。年金現価の計算そのものは、標準保険料や給付設計の変更の問題の途中で使われる「部品」になりました。
損益分析が少しずつ増えた:第11章は 9.5% → 10.2% → 11.8%。貸借対照表・損益計算書の空欄補充や、複数要因が重なった年度の総合損益が、問題1の小問にも大問にも出ます。
第7章「開放型の財政方式」の値は 8.5% → 3.0% → 8.4% と上下します。開放基金方式は、統合・分割や再計算の大問の中で使われることが多く、どの章の主な論点に数えるかで値が動くためです。第5〜7章の合計で見れば安定しています。
大問構成の変化
図序-2は、大問ごとの配点です。2016〜2017年度は問題1(小問6問、30点)と3つの大問、2018〜2021年度は問題1(8問、40点)と3つの大問でした。2022年度からは問題1(5点×8問=40点)と大問2つ(計60点)の3大問構成で、問題2と問題3の配分は2024年度だけ40点と20点、ほかの年度は30点ずつです。
図 序-2 大問ごとの配点(2016〜2025年度)。同じ構成の年度はまとめて示す
問題1は、第1〜12章の内容を一通りめぐる独立した小問です。問題2・3は「(1)〜(5)」のような6〜10点の設問の集まりで、各設問がさらに (ア)(イ) などの2〜4点の空欄に分かれます。1つの設問の中では、同じ制度の設定の上で「標準保険料 → 責任準備金 → 未積立債務 → 特別保険料率」のように小問が積み重なります。設問どうしは独立していることが多いので、1つの設問で行き詰まっても、次の設問は最初から解き直せます。
難易度の分布
本書の分析では、各小問の難易度を3段階で判定しています。A(定型)は公式の直接適用や定義の正誤で5分未満で解ける問題、B(標準)は2〜3段の計算や方式間の変換が要る問題、C(多段)は計算を何段も重ねる問題、文字式の導出、長い設定の読解が要る問題です。直近10年の小問数は A が14問、B が119問、C が131問で、1年あたりの平均配点は A が2.8点、B が39.0点、C が58.2点です(図序-3)。
図 序-3 難易度別の配点(2016〜2025年度)。C は最も少ない年でも32点
年金数理では、毎年の配点の半分以上が C です(最も多い2020年度は74点)。ただし C の多くは、発想の飛躍が要る難問ではなく、本書の各章にある定型の手順を3〜4段つなげた問題です。たとえば「制度を分割し、積立金を責任準備金の比で配分し、未積立債務を5年で償却する特別保険料率を求める」問題は、1段ずつなら第6章と第8章の例題と同じ計算です。C の割合は問題1でも51%、問題2・3では62%あり、「C を捨てて B までを取る」戦略では合格点に届きません。
目安として「A は全問、B は9割、C は6割」を取ると、各年度の得点は67.8〜80.9点(平均72.8点)になります。C が最も多い2020年度でも67.8点で、70点に近い水準です。つまり、C の6割を取れるかどうかが70点の分かれ目で、そのための練習になるのが、各章に1〜2問ある問題集の誘導つきの問題です。
取るべき問題:問題1の B と、大問の各設問の最初の空欄。財政方式の積立金の正誤、加入年齢方式の標準保険料、特別保険料率、利差損益、定常人口の平均年齢は、いずれも S の節の手順をそのまま使って解けます。
後回しにする問題:5分考えて方針が立たない小問。直近の問題1では、定年延長後40年時点の平均年齢(2025年度問1(2))、新規加入停止後に積立金を使い切る給付改善の倍率(2022年度問1(8))、支払回数と額を変えた有期年金の等価比率(2021年度問1(6))などです。
捨ててよい空欄:大問の最後にある、配点1〜2点で前の結果を何段も使う空欄(2023年度問3(3)(エ)の剰余金で可能なベース・アップの回数、2020年度問2(2)③の2つのケースの積立金が一致する時期など)。時間が残ったときにだけ取り組みます。
頻出の出題パターン
表序-4は、直近10年に繰り返し出ている出題パターンと、本書で扱う節です。同じ型の問題が数値や給付設計を変えて出るので、各節の例題と問題集の S の問題で型を身につけておくことが、そのまま得点になります。
表 序-4 頻出の出題パターンと本書の節
| 出題パターン | 主な出題 | 本書の節 |
|---|---|---|
合格戦略
解く順番
解き始める前の2〜3分で全大問の設定を確認し、問題2・3のうち、どの設問が得意分野かを見ておきます。そのうえで問題1から順に解きます。問題1は1問5点の独立した小問で、時間あたりの得点が最も高い部分です。方針が立たない小問には印を付けて飛ばし、一通り解いてから戻ります。問題2・3は、設問の (1) から順に、各設問の最初の空欄を確実に取りながら進みます。
時間配分
満点100点に対して試験時間は180分なので、1点あたり約1.8分が基準です。5点の小問なら約9分ですが、定型の問題を5〜6分で終えて、浮いた時間を問題2・3の後半に回します。2025年度の構成(40点・30点・30点)なら、表序-5の配分が目安です。
表 序-5 180分の時間配分の目安(3大問の場合)
| 段階 | 時間 | すること |
|---|---|---|
| 全体の確認と問題1 | 60分 | 最初の2〜3分で全体を見る。小問は1問7分。5分で方針が立たなければ飛ばす |
| 問題2・3 | 110分 | 1つの大問に約55分。6〜10点の設問1つに15〜20分を目安に、前の空欄から確実に取る |
| 見直し・再挑戦 | 10分 | 飛ばした小問に戻る。全欄の記入を確かめる |
未記入の欄は得点になりません。時間が残り少なくなったら、計算が終わっていない欄にも、選択肢の中から最も近い値を入れておきます。
電卓の使い方
使える電卓は四則演算・\(\sqrt{\phantom{x}}\)・メモリーだけです。累乗や指数の値は、必要なものが問題文に与えられるので、それを組み合わせて使います。
累乗は与えられた値から作る:\(1.02^{20}=(1.02^{10})^2\)、\(v^{40}=1/1.02^{40}\) のように積と商で作ります。残存率と割引の積は \(D_{60}/D_{20}=(0.975/1.015)^{40}\) のように1つの比にまとめてから計算すると、桁落ちと押し間違いが減ります。定数計算機能のある電卓なら「\(1.02\times{=}{=}\cdots\)」で累乗を作れますが、操作は機種によって違うので、事前に確かめておきます。
根は \(\sqrt{\phantom{x}}\) を重ねる:4乗根は \(\sqrt{\phantom{x}}\) を2回、8乗根は3回押します。ベース・アップ率や定率償却の償却割合を逆算する問題は、期間を4年・8年・16年にして、この操作で答えが出るように作られています。
和は閉じた式にする:脱退率が一定なら \(\sum_{t=0}^{n-1}\rho^t=(1-\rho^n)/(1-\rho)\)、確定年金は \(\adue_{\angl{n}}=(1-v^n)/d\) のように、項を1つずつ足さずに閉じた式で計算します。項を足すしかないときは、メモリー機能(M\(+\))に足し込みます。
「最も近いもの」を利用する:選択肢はほぼ等間隔なので、途中の値は有効数字4〜5桁で十分です。答えが2つの選択肢のほぼ中央に来たときだけ、丸めずに計算し直します。ベース・アップ率のように未知数を含む問題では、選択肢の値を代入して条件を満たすかを確かめる方法も有効です。
誘導問題での部分点の取り方
配点は空欄ごと、またはいくつかの空欄のまとまりごとに付いています。大問でも、すべての空欄が埋まらなければ0点ということはありません。
最初の空欄は易しい:標準保険料、責任準備金、定常状態の積立金など、設定を確かめる計算であることが多く、B の難しさです。必ず取ります。
式を選ぶ空欄は、特別な場合で確かめる:\(i=0\)、\(n=1\)、脱退率0などを代入すると、多くの選択肢は明らかに誤りになります。単位(人数か金額か、1人あたりか制度全体か)も、選択肢を絞る手がかりになります。
前の空欄の結果は選択肢の値で先へ進む:前の空欄が正しく解けなくても、最も確からしい選択肢の値を使って次の空欄に進めば、後の空欄で点を取れることがあります。
同じ選択肢を何度も使えることがある:問題文の指示(「同じ選択肢を複数回選んでもよい」など)を確認してから選びます。
アクチュアリー一次試験 合格ナビ
アプリなら、空欄ごとに記号を選ぶ本番と同じ形式で問題を解いて自動採点し、間違えた問題を受験日に合わせて出し直します。電卓と、180分の模擬試験も使えます。